今回は石油元売り会社のENEOSが先日発表した本決算について検証してみます。
2022年3月期の業績は資源価格の上昇を受けて好調な状態が続いていますが、ENEOSの株価は停滞していました。
しかし今回の決算を受けて株価は急騰していますので、ENEOSの現状と今後を踏まえて高配当銘柄として投資可能かまとめていきます。
ENEOSの現状
ENEOSは原油を精製し石油製品として販売する石油元売り会社ですが、石油元売り銘柄の業績はその時の原油価格によって以前仕入れて現在在庫で持っている石油の価格も増減し、販売するガソリン等の石油製品の利益も変わってくる為、業績は原油価格に大きく左右されます。
実際ENEOSの業績も2020年3月期は、年明け以降のコロナ禍によるガソリン需要の減少に加え、原油価格の下落で大きな赤字に転落していますが、2022年3月期は資源価格の上昇などにより石油、天然ガスや金属セグメントが大幅増益となり業績も急回復しています。
原油先物価格
先程触れた様にENEOSの業績は原油価格の値動きに大きく左右されますので、ENEOSの決算を検証する前に原油価格の最近の動きをみておきます。

2020年春のコロナショックでまさかのマイナスというありえない価格を付けた後は少しずつ回復しています。
2021年頃からはコロナからの経済回復で原油の需要が高まった事や最近ではロシアのウクライナ侵攻により価格も大きく上昇しており、直近は100ドルを超えて推移しています。
最終利益事前予想
銘柄 | コード | 会社予想(億円) | コンセンサス予想(億円) | |
ENEOS | 5020 | 4900 | 4647 |
ENEOSの決算発表前の最終利益について会社予想と四季報コンセンサス予想を確認しておきます。
ENEOSは3月25日に最終利益予想を4900億円へ2100億円上方修正していますが、事前予想はコンセンサスの方が253億円低い予想となっています。
3月末という期末ぎりぎりでの上方修正でしたので、ここから大きく変動する事は無いかと思いますが、この辺りの状況を踏まえて実際の決算をみていきます。
ENEOS本決算
ENEOSは5月13日に本決算を発表していますが、2022年3月期の最終利益は5371億円と4232億円の増益となっており、年間配当は22円で変更はありません。
今期予測は最終利益が1700億円と3671億円の大幅減益見込みで発表していますが、年間配当は据え置きの22円予想となっています。
前期業績好調の要因は、新型コロナウイルスによる影響や生産・供給体制の再構築に伴う一過性損失などはありましたが、 資源価格高騰に伴うタイムラグを含む石油製品マージン良化、石油・天然ガス開発・金属事業の増益などによりカバーできた為としています。
最終着地比較
銘柄 | コード | 決算発表日 | 最終利益(億円) | 会社予想(億円) | コンセンサス予想(億円) | |
ENEOS | 5020 | 5月13日 | 5371 | 4900 | 4647 |
ENEOSの最終利益について事前の会社予想、コンセンサスと比較していきますが、両方とも上回っての最終着地となっています。
また、決算前の注目点としてENEOSは今期業績の見込みも挙げていましたが、こちらも四季報コンセンサス1678億円を少し上回る1700億円での発表となっており、業績については予想を上回った着地になっています。
自社株買い
そしてENEOSは今回の決算で自社株買いの取得を発表しています。
上限は3億株、1000億円で上限株数を取得した場合は発行済株式総数の9.3%となり、取得期間は5月16日から12月30日までとしています。
先日はヤマダHDが発行済株式数の23.9%を取得する自社株買いを発表し話題になりましたが、今回の9.3%でも比率は十分大きくポジティブサプライズとして受け止められています。
株価推移

株価はコロナショック時に320円まで売られましたが、2021年は原油価格の上昇もあり500円を超える場面がありました。
今年に入ってからも原油価格は上昇しており、直近ではロシアのウクライナ侵攻で原油価格は去年の高値を大きく超えていますが、株価は400円台での動きとなっていました。
しかし、今回の決算での自社株買いがポジティブサプライズとなり、また決算発表が場中だった事で発表後すぐに株価は急騰し、久しぶりに500円を超えて推移しています。
最終利益(億円)推移
銘柄名 | ENEOS |
2018年3月期 | 3619 |
2019年3月期 | 3223 |
2020年3月期 | -1879 |
2021年3月期 | 1139 |
2022年3月期 | 5371 |
2023年3月期(会社予想) | 1700 |
2018年からの最終利益推移を見ていきますが、増減の激しい展開が続いています。
ENEOSの業績は原油価格に大きく左右される為、原油価格の上下によって最終利益も増減を繰り返しています。
実際前期は原油価格上昇により大幅増益となりましたが、今期見込みは高止まりしている原油価格を受けてタイムラグマージンの減少を想定し、大幅減益見込みで発表しています。
配当推移
銘柄名 | ENEOS |
2015年 | 16 |
2016年 | 16 |
2017年 | 16 |
2018年 | 19 |
2019年 | 21 |
2020年 | 22 |
2021年 | 22 |
2022年 | 22 |
2023年(会社予想) | 22 |
2015年からの配当推移を見ていきますが、ここ数年は横ばいが続いています。
前期の大幅増益をみると増配も期待したいところでしたが、今期見込みも含め据え置きとなっています。
ENEOSの配当方針は、株主への利益還元が経営上の重要課題であるとの認識のもと、中期的な連結業績の推移および見通しを反映した利益還元の実施を基本としながら、安定的な配当の継続に努めるとしています。
具体的な数値としては、中期経営計画(2022年度迄)中の配当は現状を下回らない配当水準とし、また総還元性向を3カ年累計在庫影響を除き当期利益の50%以上としています。
ちなみに2023年3月期は自社株買いを含め総還元性向は現状57%になる様です。
株価等指標(2022年5月20日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
ENEOS | 5020 | 515.3 | 9.7 | 0.58 | 22 | 4.27 | 41.5 |
株価は最近の原油高でもそこま株価は上昇してませんでしたが、今回の決算を受けて500円近くまで上昇した為、配当利回りは4%前半の水準です。また、今期は大幅減益見込みとなっていますが、それでもPERは約9倍台、PBRで約0.6倍付近と市場平均と比較して割安な数値です。
また配当性向は減益の影響で40%台まで上昇しています。
ENEOSの今後
ENEOSはグループとして2040年までの長期ビジョンを発表しています。
アジアを代表するエネルギー・素材企業として事業構造の変革による価値を創造すると掲げていますが、1番大きな項目は低炭素、循環型社会への貢献だと思います。
ガソリンの国内需要は人口減少やハイブリット車の普及で年に数%ずつ減少しており、今後も電気自動車の普及等で回復は見込めそうにありません。
そこでENEOSは国内有数の再生可能エネルギー事業者であるジャパン・リニューアブル・エナジーの買収を通じて日本を代表する再生可能エネルギー事業者への飛躍を目指すとしています。
またエネルギーの安定供給基盤を維持しつつカーボンニュートラルを達成するため、政府支援の下、幅広くパートナーを募り二酸化炭素を回収して地中に埋めるCCS事業を推進するともしています。
ENEOSの投資判断
以上の点を踏まえENEOSの投資判断ですが、石油に依存しない収益構造の確立が必要な事は明らかです。
途中で触れた様にENEOSの最終利益は原油価格によって大きく増減しており、前期決算は絶好調でしたが、今期は大幅減益見込みと安定感には欠けてます。
もちろん石油からの脱却はそう簡単には進まないでしょうし、時間の掛かる問題だとは思いまずが避けては通れない問題だと思います。
世界的な脱炭素の流れもあり、日本でも2030年代に新車販売で電動車100%を実現すると表明しています。
この目標が期限通りに達成出来るかは不透明ですが、世界的に同様の流れですので将来的にガソリン車はこの世から無くなる可能性が高いです。
当然ガソリンの需要は減りますのでガソリンスタンドの存在も気になるところです。
しかし、ガソリンは使用しなくなったとしても代替エネルギーは必要になると思いますし、実際ENEOSは水素や再生可能エネルギー、天然ガスを使用した石油に代わるエネルギーの開発に力を入れています。
以上の様な点を考慮すると石油元売り会社としてのENEOSの将来には不安がありますがエネルギー会社としての将来性には期待できる部分も大きいと思います。
増配こそありませんが配当は安定しており配当利回りも4%半ばと十分高水準ですので、ENEOSは個人的にも現状600株保有していますが、今後株価が下がる場面があれば買い増しを検討したいと考えています。
ENEOSの2022年本決算についてはYouTubeで動画版を投稿していますのであわせてご覧ください。






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