現在の自動車業界は脱炭素社会に向けEV(電機自動車)への転換が急速に進んでおり、EV市場は2035年までに40倍以上に成長すると予測されています。今後のEV市場では過去とは全く違うイノベーションが起きると想定されるため、現在各国が総力を上げてEV自動車の普及に向けて動き出していますが、日本でも2035年までに新車販売を全て電気自動車に置き換える方針を掲げています。
その他にも車の自動運転化など現在自動車業界は世界的に大きな変革期を迎えているなか、当然日本の自動車メーカーも対応を迫られ、現在様々な開発や検討が重ねられていますが、今後の動向は不透明な状況です。
そこで今回は大変革時代を迎えている自動車業界において、日本を代表する自動車メーカー4社が高配当株として投資可能か検証していきます。
【7203】トヨタ自動車
最初の銘柄はトヨタ自動車です。
トヨタについては敢えて説明するまでも無いかもしれませんが、日本最大手の自動車メーカーで世界での自動車販売台数もトップクラスです。また、子会社であるダイハツに加え、マツダやスズキなどの自動車メーカーとも提携を結び勢力を拡大しています。
そしてEV市場への対応については、2030年までにEV30車種、年間350万台の販売を目標にしていますが、最近はEV戦略の見直しを検討しているとの報道もあり状況は芳しくない様です。
直近決算
トヨタは2月9日に第3四半期決算を発表しており、最終利益は1兆8990億円と前年同期比で4172億円の減益となっていますが、通期最終利益に変更はなく期末配当は非開示のままです。
前期比減益の要因は、半導体需給ひっ迫や自然災害などの影響で生産計画が大きく変動した事や資材、エネルギー費高騰などの影響としています。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | トヨタ |
2019年3月期 | 18828 |
2020年3月期 | 20361 |
2021年3月期 | 22452 |
2022年3月期 | 28501 |
2023年3月期(会社予想) | 23600 |
2019年からの通期最終利益を見ていきますが前期までは順調に増益が続いており、今期は現状減益見込みとなっていますが、数年前と比較すると順調な内容です。
トヨタが日本を代表する企業である事は誰もが認めるところだと思いますが、最終利益の数字を見ると今期は減益でも2兆円を超えており、まさに桁違いな事を改めて実感します。
そして今後の見通しについては、半導体の安定調達に向けた代替品の評価や設計変更への迅速な対応、 車両1台単位で受注から納車までを見える化し、リードタイムを短縮するなどあらゆる対策を推進するとしており、第3四半期時点の通期進捗率は80%付近となっています。
配当推移
銘柄名 | トヨタ |
2015年 | 40 |
2016年 | 42 |
2017年 | 42 |
2018年 | 44 |
2019年 | 44 |
2020年 | 44 |
2021年 | 48 |
2022年 | 52 |
2023年(会社予想) | 25(中間) |
2015年からの配当推移を見ていきますが、トヨタは2021年に株式を5分割していますので、2021年より前の数字は分割調整した金額になっています
数年前は40円台で据え置きの年も多かったですが、2021年からは2期連続で増配中です。
トヨタの配当方針は、連結配当性向30%を維持・向上させつつ、安定的・継続的に配当を行うよう努めるとしています。
そして今期の期末配当は非開示としていますが中間配当は25円出ており、現在の業績見込みから配当性向30%を計算すると52円になりますので、このままいけば前期と同水準の配当は期待できそうです。
株価推移
株価はコロナショックで1154円まで売られた後は順調に上昇し、去年1月には2475円まで上昇しました。その後はじわじわ売られる展開となり、直近は1800円前後で推移しています。
株価指標(2023年4月7日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
トヨタ | 7203 | 1819.5 | 10.5 | 0.90 | ‐ | ‐ | ‐ |
最近の株価はじわじわ売られていますが、前期配当52円で計算すると配当利回りは2%後半となります。
今期業績は減益見込みですがPER、PBRに割高感はなく、現状のEPS174円で配当性向30%を計算すると約52円となっています。
投資判断
今までの内容からトヨタ自動車の投資判断ですが、世界を代表する企業規模や業績を含め投資対象として検討したい銘柄ですが、企業規模が大き過ぎて業績の振れ幅が大きい事や今後のEV市場への対応面では不安な部分もあります。特にEV市場への対応を誤ればトヨタの様な大企業でも自動車業界でのポジションが大きく変化する可能性もあります。
という事でトヨタについては、今後のEV市場への対応を見守りつつ、業績や配当の動向に期待したいです。
【7267】ホンダ
2番目の銘柄は、ホンダです。
ホンダも日本を代表する輸送機器メーカーで、オートバイの販売台数、売上高は世界1位となっており、国内に限らず北米やアジアなど世界各国に製品を販売しています。
EV市場への対応については2030年までに四輪車はEV30車種、年間200万台の販売、二輪車は2025年までに10モデル以上の投入を目標にしています。また、2021年には日本で初めてシステムが運転を行うレベル3自動運転システムを搭載した車を販売しています。
直近決算
ホンダは2月10日に第3四半期決算を発表しており、最終利益は5831億円と前年同期比で10億円の増益ですが、通期最終利益、年間配当予測に変更はありません。
前期比増益の要因は、中国でのコロナ感染拡大や半導体供給不足の影響により四輪車の生産・販売台数は減少していますが、二輪車の販売が好調を維持している事に加え、収益改善に取り組んだためとしています。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | ホンダ |
2019年3月期 | 6103 |
2020年3月期 | 4557 |
2021年3月期 | 6574 |
2022年3月期 | 7070 |
2023年3月期(会社予想) | 7250 |
2019年からの通期最終利益を見ていきますが、コロナショックで大きく減益となった2020年以外は順調に推移しており、前期までで2期連続増益となっています。
今期は原材料価格の高騰や半導体不足など引き続き厳しい事業環境は続いているとの事で第2四半期決算までは前期比減益となっていました。しかし、二輪販売台数の増加に円安の追い風が加わり第3四半期決算で前期並みの業績に戻しており、通期進捗率も80%付近と順調に推移しています。
配当推移
銘柄名 | ホンダ |
2015年 | 88 |
2016年 | 88 |
2017年 | 92 |
2018年 | 100 |
2019年 | 111 |
2020年 | 112 |
2021年 | 110 |
2022年 | 120 |
2023年(会社予想) | 120 |
2015年からの配当についてコロナショックの影響を受けた2021年は減配になっていますが、概ね順調に増配傾向です。増配幅は年によって差がありますが前期は10円と大きくなっており、今期は現状据え置きの見込みとしています。ホンダの配当方針は、連結配当性向30%を目安に安定的・継続的に行うよう努める方針です。
株主優待
ホンダには株主優待があり、100株以上の保有で鈴鹿サーキットとモビリティリゾートもてぎの優待券がもらえます。また、応募製にはなりますがホンダのカレンダーも1部もらえるますので、ホンダファンの人にとってはおすすめの株主優待です。
株価推移
株価はコロナショック時に2120円まで売られましたが、その後は上下を繰り返しながら3000円を超える水準まで上昇しています。そこからは3000円台での動きが中心でしたが直近は3500円付近まで上昇しています。
株価指標(2023年4月7日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
ホンダ | 7267 | 3478 | 8.0 | 0.52 | 120 | 3.45 | 27.7 |
直近の株価はじわじわ上昇しているなか配当は現状据え置き見込みですが、配当利回りは3%半ばの水準です。
業績好調を背景にPER、PBRは市場平均と比較して割安で、配当性向は28%付近と方針通りの水準です。
投資判断
今までの内容からホンダの投資判断ですが、業績、配当は順調に推移しており、トヨタと比較すると規模感は劣りますが、3%半ばの配当利回りはトヨタを上回っています。
そして二輪車では世界トップクラスのシェアを獲得している事や自動運転においては国内メーカーの中で一歩抜け出している事も魅力を感じる点です。
という事でホンダについては二輪車の販売を伸ばしつつ、EV市場へ上手く対応していければ今後も楽しみな銘柄だと思います。
【7202】いすゞ自動車
3番目の銘柄はいすゞ自動車です。いすゞ自動車はトラックやバスなどの商用車をメインに製造する自動車メーカーでアジアや北米を中心に海外の売上比率も高くなっています。
現在の大変革時代をチャンスと捉え攻めの施策を展開するとしており、2040年までにカーボンニュートラル化に対応できるフルラインナップを確立するため、2030年代に主要モデルにおいて電動車の量産販売を拡大する戦略です。
直近決算
いすゞ自動車は2月9日に第3四半期決算を発表しており、最終利益は1258億円と212億円の増益となっていますが、通期最終利益、年間配当見込みに変更はありません。
業績好調の要因は半導体不足による生産制約があるなか、海外市場を中心に販売好調が継続した事に加え、円安の追い風があったためとしています。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | いすゞ自動車 |
2019年3月期 | 1134 |
2020年3月期 | 812 |
2021年3月期 | 427 |
2022年3月期 | 1261 |
2023年3月期(会社予想) | 1400 |
2019年からの通期最終利益を見ていきますが増減は激しくなっており、コロナショックの影響を受けた2021年は大きく減益となっていますが、前期はコロナからの経済回復や円安の影響などで過去最高益の水準へV字回復しています。
今期は半導体不足による生産制約や資材費、物流費の上昇はマイナス材料としつつも、堅調な需要は継続見込みとして更に増益見込みとしているなか、第3四半期時点の通期進捗率は90%付近と順調に推移しています。
配当推移
銘柄名 | いすゞ自動車 |
2015年 | 30 |
2016年 | 32 |
2017年 | 32 |
2018年 | 33 |
2019年 | 37 |
2020年 | 38 |
2021年 | 30 |
2022年 | 66 |
2023年(会社予想) | 72 |
2015年からの配当推移について数年前までは30円台を中心とした動きでしたが、前期は業績好調に加え配当性向の引き上げにより一気に2倍以上の水準へ増配しており、今期も更に増配見込みとなっています。
いすゞ自動車の配当方針は、2024年3月期までの中期経営計画期間は配当性向40%を目安としています。
株価推移
株価はコロナショックで599円まで売られた後、2022年初めには1800円を超える場面もありました。しかし、そこからは1500円付近で停滞し、直近も1500円前後で推移しています。
株価指標(2023年4月7日)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
いすゞ自動車 | 7202 | 1511 | 8.4 | 0.91 | 72 | 4.77 | 39.8 |
直近の株価は動きが止まっているなか大幅増配により、配当利回りは4%後半の水準です。
業績好調によりPER、PBRは市場平均より割安で、配当性向は40%付近と方針通りの水準です。
投資判断
今までの内容からいすゞ自動車の投資判断ですが、トラックやバスなどの商用車をメインに製造している点は他社にはない強みで、直近の業績や配当も順調に推移しています。
脱炭素社会への対応について、大型トラックは長距離輸送の用途が多いためEV車に加え燃料電池車なども軸になってくるとしていますが、いずれにしても普通の乗用車よりもハードルは高そうです。
以上の様にEV市場への対応については不透明な部分もありますが、トラックなどの製造に特化している点や直近の好調な業績や配当と比較して株価は上昇していない様にも感じますので、高配当株として購入を検討しても面白そうに思います。
【7270】SUBARU
最後の銘柄はSUBARUです。
SUBARUはレガシィやインプレッサシリーズなどの人気車種を製造する自動車メーカーで、アメリカを中心に海外でも人気があります。
EV市場への対応としては2030年までに全世界販売台数の40%以上を電動車へ移行する目標を掲げています。
直近決算
SUBARUは2月8日に第3四半期決算を発表しており、最終利益は1544億円と前年同期比で916億円の大幅増益となっていますが、通期最終利益、年間配当見込みに変更はありません。
業績好調の要因は原材料価格の高騰は続いているものの、米国を中心に堅調な販売が継続していることに加え、円安のプラス影響のためとしています。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | SUBARU |
2019年3月期 | 1414 |
2020年3月期 | 1525 |
2021年3月期 | 765 |
2022年3月期 | 700 |
2023年3月期(会社予想) | 2100 |
2019年からの通期最終利益を見ていきますが増減が激しくなっており、2021年頃はコロナショックの影響に加え半導体の供給不足などの影響で大きく減益となっています。
今期はコロナからの経済回復や円安の追い風もあり過去最高益の水準へV字回復する見込みとなっているなか、第3四半期時点の通期進捗率も73%付近と順調に推移しています。
配当推移
銘柄名 | SUBARU |
2015年 | 68 |
2016年 | 144 |
2017年 | 144 |
2018年 | 144 |
2019年 | 144 |
2020年 | 100 |
2021年 | 56 |
2022年 | 56 |
2023年(会社予想) | 76 |
2015年からの配当推移について数年前までは144円で安定していましたが、2020年以降は変動が激しくなっており、2021年は業績低迷を背景に大幅減配となっています。今期はコロナ前を上回る水準へ業績は回復していますが、現状の配当見込みはコロナ前の水準へ戻っていないです。
SUBARUの配当方針は配当を主に継続的・安定的な還元を基本としつつ、業績連動の考え方に基づき毎期の業績、投資計画、経営環境を勘案して決定するとしており、具体的な目安は連結配当性向30%~50%としています。
株価推移
株価は2017年には5000円付近で推移していましたが、そこからは右肩下がりの状況です。
コロナショック以降は2000円を挟んだ値動きが中心で、直近は2100円前後で推移しています。
株価指標(2023年4月7日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
SUBARU | 7270 | 2051 | 7.5 | 0.77 | 76 | 3.71 | 27.7 |
最近の株価は動きが止まっているなか、今期は増配という事もあり配当利回りは3%半ばの水準です。業績好調によりPER、PBRは市場平均よりも割安で、配当性向は28%付近と目安の下限を下回っています。
投資判断
今までの内容からSUBARUの投資判断ですが、今期業績はコロナからの経済回復や円安の影響で過去最高益の水準へV字回復見込みとなっており、配当性向も現状目安の下限を下回っていますので、今後更なる増額が期待できるかもしれません。
EV市場への対応については、2030年までに全世界販売台数の40%以上を電動車へ移行するという目標をクリアできるかは分かりませんが、国内生産体制の再編などを今期より本格化する予定です。
株価も好調な業績の割に上昇していませんので、長い目でみれば今の水準はチャンスかもしれません。
まとめ
今回は現在大変革時代を迎えている自動車業界において国内の自動車メーカー4社を個別に検証しました。
企業規模や業績の規模感はトヨタが圧倒していますが、二輪車に特化しているホンダやトラックに特化しているいすゞ自動車、海外を中心に根強い人気があるSUBARUなど他の銘柄にも魅力を感じます。
しかし、EV市場への対応は世界的な課題であり、自動車業界は従来から日本を代表する産業ではありますが、今後EV化への対応を誤れば世界的な勢力図が変化してしまう可能性もあります。
以上の様にまだまだ不透明な状況が続く自動車業界ですが、株式投資は自分が応援したい企業へ投資するという基本へ立ち返り、将来を期待して好みの銘柄を購入する事もアリの様な気はします。
そして、今回まとめたEV市場については現在メールアドレスを登録するだけでもらえる無料のレポートがあります。レポートではEV市場に投資するうえでの注意点や世界的なEV化によって将来が期待できる具体的な銘柄についても解説されており、私も今回の記事を書く際に参考にしました。
特にEV化によって恩恵を受ける銘柄については大手自動車メーカーだけでなく、幅広い視点で状況を分析していますので、興味のある方は下記リンクからメールアドレスを登録してみてください。
大変革時代を迎えている自動車業界については、YouTubeで動画版も投稿していますのであわせてご覧ください。
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