3月期銘柄の本決算発表が先月ピークを迎えましたが、前期の業績は原材料価格の高騰や為替の変動などの影響を受けつつも好調な内容が多く、今期業績は前期の反動を想定して保守的な予測にしている銘柄もありましたが、概ね好調な銘柄が多かった印象です。
しかし中には、従来の予想や市場の予想をはるかに超える衝撃の内容だった決算もありましたので、今回は先月の本決算が予想外だった4銘柄を検証していきます。
【4502】武田薬品工業
最初の銘柄は武田薬品工業です。
武田薬品工業は日本の医薬品企業の中で売上はトップの国内最大手医薬品メーカーで、現在約80の国と地域で医薬品を販売しており、世界中に製造拠点を有するとともに日本および米国に主要な研究拠点があります。
そして、2019年にはアイルランドの製薬大手シャイアーを買収するなど、M&Aを絡め企業規模の拡大を図っています。
直近決算
武田薬品工業は5月11日に本決算を発表しており、前期の通期最終利益は3170億円と870億円の増益となっていますが、配当は据え置きの年間180円としています。
今期予測は最終利益が1420億円と1750億円の減益見込みとしていますが、配当は8円増配の年間188円で発表しています。
また配当方針について、毎年の年間配当金を増額または維持する累進配当の導入を表明しています。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | 武田薬品 |
2018年3月期 | 1868 |
2019年3月期 | 1351 |
2020年3月期 | 442 |
2021年3月期 | 3760 |
2022年3月期 | 2300 |
2023年3月期 | 3170 |
2024年3月期(会社予想) | 1420 |
2018年からの通期最終利益について増減の激しい展開が続いていますが、前期業績は大幅増益となっています。
前期業績好調の要因は、成長製品や新製品の販売が好調に推移している事に加え、円安の追い風があったためとしています。
しかし今期業績については、成長製品や新製品の販売好調が継続するとして、独占販売期間満了による売上収益へのマイナス影響の大部分を相殺する見込みとしていますが、コロナワクチンの減収と為替のマイナス影響を考慮し、大幅減益見込みになっています。
配当推移
年 | 配当金 |
2015年 | 180 |
2016年 | 180 |
2017年 | 180 |
2018年 | 180 |
2019年 | 180 |
2020年 | 180 |
2021年 | 180 |
2022年 | 180 |
2023年 | 180 |
2024年(会社予想) | 188 |
2015年からの配当推移を見ていきますが、前期までの年間配当は毎年180円で、遡ると2009年から10年以上180円で変わっておらず、30期以上減配はしていませんでした。
しかし、今期はレバレッジ低下の進捗および将来の成長に対する自信に基づく増配として、久しぶりに8円の増配見込みとしています。
また、先程触れた様に配当方針については、毎年の年間配当金を増額または維持する累進配当を導入しています。
株価推移
株価は2018年に6693円まで上昇しましたが、その後は右肩下がりで、コロナショックでは2894円まで下げました。
その後は停滞する時期もありましたが去年以降の株価は右肩上がりの状況で、直近は4500円付近で推移しています。
株価指標(2023年6月2日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
武田薬品 | 4502 | 4468 | 48.9 | 1.09 | 188 | 4.21 | 205.7 |
最近の株価は上昇が続いていますが、久しぶりの増配という事で配当利回りは4%前半となっています。
今期業績は大幅減益見込みですのでPERは市場平均よりもかなり割高で、配当性向は200%超とあまり見ないほど高水準です。
予想外だった点
武田薬品工業の決算で予想外だった点は、何と言っても久しぶりの増配と累進配当の導入です。
武田薬品工業の配当は10年以上据え置きの状態で、その間も配当性向が100%を超える様な年もありましたので、今後も180円の年間配当は維持するものだと思っていました。
そんななか、今期業績は大幅減益見込みとしているなかでの増配と累進配当の導入は衝撃的です。
もちろん様々な点を考慮したうえでの決定だと思いますので、累進配当導入の要因としていた財務面の改善や将来の見通しに自信があるのだと思います。
以上の点を踏まえると、配当性向200%超は通常であれば投資対象になりませんが、引き続き気になる銘柄ではあります。
【9432】NTT
2番目の銘柄はNTTです。
NTTは通信事業を主体とするNTTグループの持株会社で、2020年にはNTTドコモを完全子会社化しています。
また、今後の方針として次世代の情報ネットワークに関する構想であるIOWN(アイオン)による新たな価値創造や金融サービス、ヘルスケア・メディカルサービスに注力する方針で、国内のみに限らず海外市場の開拓も進めています。
直近決算
NTTは5月12日に本決算を発表しており、前期の通期最終利益は1兆2131億円と321億円の増益、配当は5円増配の年間120円としています。
今期予測は最終利益が1兆2550億円と419億円の増益見込みとしているなか、配当は年間5円としています。
また、NTTは6月30日を基準日とした株式の25分割を発表しています。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | NTT |
2019年3月期 | 8545 |
2020年3月期 | 8553 |
2021年3月期 | 9161 |
2022年3月期 | 11810 |
2023年3月期 | 12131 |
2024年3月期(会社予想) | 12550 |
2019年からの通期最終利益について、コロナ感染拡大を受けた2020年頃は据え置きの年もありましたが、ここ数年の増益幅は数年前と比較して勢いが付いています。
業績好調の要因は、通信料金値下げの影響はありましたが、企業のデジタル変革の取り組みが急速に広がり国内外でITサービスの需要が増えたことや、テレワークの拡大で家庭向けのインターネットサービスの契約が増えたためとしています。
今期業績は電気代高騰の影響が不透明ではあるとはしていますが、更に過去最高益を更新する見込みとしています。
配当推移
銘柄名 | NTT |
2015年 | 45 |
2016年 | 55 |
2017年 | 60 |
2018年 | 75 |
2019年 | 90 |
2020年 | 95 |
2021年 | 105 |
2022年 | 115 |
2023年 | 120 |
2024年(会社予想) | 5 |
2015年からの配当推移をみていきますが、減配はもちろん据え置きの年すらなく順調に増配傾向です。
また、今期配当見込みは年間5円としていますが、先程お伝えした株式の25分割を考慮すると実質的には年間125円ですので5円の増配となります。
NTTの配当方針は、株主還元の充実は当社にとって最も重要な経営課題の一つとし継続的な増配の実施を基本的な考え方としています。
具体的な配当性向などの目安は掲げていませんが、今後も好調な業績が続けば更なる増配が期待できそうな配当推移です。
株価推移
株価は2020年10月に2127円まで売られましたが、その後は右肩上がりの状況です。
そして去年10月に4128円まで上昇した後は反落する場面もありましたが、直近は再び4100円付近まで値を戻しています。
株価指標(2023年6月2日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
NTT | 9432 | 4040 | 11.0 | 1.61 | 125 | 3.09 | 33.9 |
最近の株価はじわじわ上昇していますが、順調に増配が続いていますので配当利回りは3%前後となっています。
業績は過去最高益が続いていますがPERに割安感はそれ程なく、配当性向は34%付近と余裕を感じる水準です。
予想外だった点
NTTの決算で予想外だった点は株式の25分割です。2分割、3分割くらいならば今までの経緯から行ってもおかしくありませんでしたが、25分割は衝撃的です。
NTTは株式分割の理由として2024年から新しいNISA制度が導入されることも踏まえ、投資単位引き下げにより投資しやすい環境を整え、投資家層を幅広い世代において拡大する事を目的としています。
分割後は2万円以下で購入できる事になりますが、同様の流れが他の銘柄へ広がるのかも含め衝撃の発表でした。
【4423】アルテリア・ネットワークス
3番目の銘柄はアルテリア・ネットワークスで、インターネット事業、ネットワーク事業などを手掛ける電気通信事業者です。
アルテリア・ネットワークスは、主要都市部を中心に光ファイバー網を各地に敷設しており、独自の回線を有する点は新規サービス開発やコストコントロールなどの面において大きなアドバンテージとしています。
直近決算
アルテリア・ネットワークスは5月11日に本決算を発表しており、前期の通期最終利益は58億円と約2億円の減益ですが、配当はほぼ据え置きの年間60.52円としています。
今期業績は最終利益が62億円と約4億円の増益見込みとなっています。
また、丸紅などによるTOB(公開買付け)の開始予定に関する意見表明を公表しており、TOBが実施される事を踏まえ、今期配当は無配で発表しています。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | アルテリア |
2019年3月期 | 46 |
2020年3月期 | 52 |
2021年3月期 | 55 |
2022年3月期 | 60 |
2023年3月期 | 58 |
2024年3月期(会社予想) | 62 |
2019年からの通期最終利益について、順調に増益が続いていましたが前期は減益となっています。
前期業績が減益となった要因は、法人系主力のネットワークサービス並びにインターネットサービスの売上については好調な受注により堅調に推移しましたが、昨年発生した不祥事に伴い特別調査委員会を設置した事で約3億円の調査諸費⽤が発生したためとしています。
今期業績は月額課金中心の売上拡大やコスト抑制により増益見込みとしています。
配当推移
銘柄名 | アルテリア |
2019年 | 26.22 |
2020年 | 52.97 |
2021年 | 55.37 |
2022年 | 60.45 |
2023年 | 60.52 |
2024年(会社予想) | 0 |
アルテリア・ネットワークスは上場が2018年のため、2019年からの配当推移を見ていきます。
上場以降は順調に増配が続いており、前期は業績が減益となりましたが小幅の増配となっています。
そして今期は先程も触れた様に、丸紅などによりTOBが実施される事を踏まえ、無配の見込みとしています。
株価推移
株価はコロナショックで1488円まで下落した後すぐに2259円まで上昇しましたが、その後は下落傾向です。
そして2022年6月に1159円まで売られた後は停滞が続きましたが、今回のTOB発表を受けて直近はTOB価格の1980円付近まで上昇しています。
株価指標(2023年6月2日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
アルテリア・ネットワークス | 4423 | 1966 | 15.8 | 3.40 | 0 | 0.00 | ‐ |
TOB発表により株価は急騰していますが、今期配当も無配となっていますので配当利回りはありません。
業績は順調に推移していますが、PER、PBRは市場平均よりも割高となっています。
予想外だった点
アルテリア・ネットワークスの決算で予想外だった点はTOBの発表で、アルテリアもTOBに賛同すると表明しており、またTOB成立後は上場廃止予定との事です。
TOB価格付近で売却すれば7万円くらいの利益にはなりますので悪くはないのですが、アルテリアは今年1月に購入したばかりでしたのでNISA枠を失う事も含め少し複雑です。
しかし、こればかりは仕方ありませんので、個人的にはもう少し様子を見ますがTOBに応募する手間などを考慮し、最終的には市場で売却する事になるかと思います。
【8306】三菱UFJFG
最後の銘柄は三菱UFJFGです。
三菱UFJFGは、メガバンクの三菱UFJ銀行を中核に持つ金融持株会社で国内最大手の金融グループです。
三菱UFJ銀行のほか、三菱UFJ証券やリースの三菱HCキャピタルなども傘下にしており、また国内だけでなく海外市場への進出も積極的に進めています。
直近決算
三菱UFJFGは5月15日に本決算を発表しており、前期の通期最終利益は1兆1164億円と144億円の減益となっていますが、配当は4円増配の年間32円としています。
今期予測は最終利益が1兆3000億円と1836億円の増益見込みとしているなか、配当は9円増配の年間41円で発表しています。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | 三菱UFJ |
2018年3月期 | 9896 |
2019年3月期 | 8726 |
2020年3月期 | 5281 |
2021年3月期 | 7770 |
2022年3月期 | 11308 |
2023年3月期 | 11164 |
2024年3月期(会社予想) | 13000 |
2018年からの通期最終利益を見ていきますが、コロナショックで大幅減益となった2020年以外は概ね順調に推移しており、2022年はコロナショックによる倒産に備えていた与信関連費用の戻り入れなどの影響で最終利益は1兆円の大台に乗せています。
前期はMUBの株式譲渡に絡む特別損失の影響で第3四半期までは厳しい状況になっていましたが、損失の大部分は第4四半期に特別利益として戻ってくるとしており、実際前期業績も減益ではありましたが、1兆円の大台は超えています。
そして今期も本業は好調に推移するとして、更に増益の見込みとしています。
配当推移
銘柄名 | 三菱UFJ |
2015年 | 18 |
2016年 | 18 |
2017年 | 18 |
2018年 | 19 |
2019年 | 22 |
2020年 | 25 |
2021年 | 25 |
2022年 | 28 |
2023年 | 32 |
2024年(会社予想) | 41 |
2015年からの配当推移を見ていきますが、2018年頃からは順調に増配傾向です。
コロナショックで業績が落ち込んだ2021年の配当は据え置きでしたが、ここ数年は業績好調を背景に増配額も大きくなっており、今期は過去最高の引き上げ幅となる9円の増配見込みとしています。
三菱UFJFGの配当方針は、2023年度までに配当性向40%への累進的な引き上げを目指すとしています。
株価推移
株価はコロナショックで380円まで売られた後は上下を繰り返しながらも順調に上昇しています。
そして去年年末の日銀による長期金利上限幅引き上げをきっかけに金利先高観が強まった事で急騰し、シリコンバレー銀行の問題で反落する場面はありましたが、直近は900円台で推移しています。
株価指標(2023年6月2日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
三菱UFJ | 8306 | 969.3 | 9.0 | 0.68 | 41 | 4.23 | 37.9 |
最近の株価は高値圏で推移していますが、今期の配当は大幅増配見込みですので配当利回りは4%前半となっています。
業績好調によりPER、PBRは市場平均より割安で、配当性向は38%付近と方針通りの水準です。
予想外だった点
三菱UFJFGの決算で予想外だった点は、今期の配当見込みを過去最高の増配幅9円で発表した事です。
業績は順調に推移していましたので今期も増配予測になる事は想定できましたが、期初から一気に9円の増配は衝撃でした。
ただ9円増配でも配当性向にはまだ余裕がありますので、今期の更なる増配も期待できそうな印象です。
まとめ
今回は先月発表された決算の内容が衝撃的で予想外だった4銘柄を検証しました。
先月の決算は3月期銘柄にとっては本決算だった事もあり、第3四半期までの業績推移を踏まえたうえでの最終着地や今期予測を含め、会社予想や市場予想とは大きく異なる決算だった銘柄もありました。
今回検証した4銘柄は、どちらかというとポジティブに予想外だったですので良かったですが、逆のパターンもありますので今後も決算発表には注意が必要です。
予想外の決算だった4銘柄はYouTubeで動画版も投稿していますので、あわせてご覧ください。
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