最近の日本株は株主還元力を高めている企業が多く、増配や自社株買いを発表する銘柄も増えている様に感じますが、中には10年以上継続して増配している銘柄もあります。
10年以上という事はコロナショックなどの不測の事態が生じた時でも減配はおろか配当を据え置きにすらしていない事になります。
そこでそんな10年以上増配を継続している5銘柄を検証していきますが、増配を継続しているだけで配当利回りが低ければ投資対象としての魅力が薄れますので、今回は配当利回りが3%半ば程度以上の銘柄を選定しています。
【8015】豊田通商
最初の銘柄は豊田通商です。
豊田通商はトヨタグループの総合商社で本社は愛知県です。トヨタやダイハツなどの車両や車両部品に加え、海外で生産された車両の輸出販売も手掛けています。
また、自動車関連だけでなく化学品や合成樹脂に加え、エネルギーや食料品なども取り扱っています。
直近決算
豊田通商は2月3日に第3四半期決算を発表しており、最終利益は2354億円と前年同期比で552億円の増益となっていますが、通期最終利益、年間配当見込みに変更はありません。
業績好調の要因は、アフリカや豪亜地域、中南⽶を中⼼とした⾃動⾞販売の増加に加え⾦属・欧州電⼒市況上昇などのためとしています。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | 豊田通商 |
2019年3月期 | 1326 |
2020年3月期 | 1355 |
2021年3月期 | 1346 |
2022年3月期 | 2222 |
2023年3月期(会社予想) | 2700 |
2019年からの通期最終利益ついて数年前までは1300億円台で安定していましたが、2022年以降は業績が大きく伸びています。業績が大きく伸びた要因は、コロナからの経済活動再開もあり海外の自動車販売数が増加した事や商品市況上昇により金属や化学品セグメントが大きく伸びたためとの事です。
前期は商品市況の落ち着きなどを想定し、当初は通期最終利益の予想を2100億円と減益見込みにしていましたが、引き続き堅調な動きが継続しているとして第2四半期決算で最終利益の上方修正を発表しています。
配当推移
銘柄名 | 豊田通商 |
2015年 | 56 |
2016年 | 62 |
2017年 | 70 |
2018年 | 94 |
2019年 | 100 |
2020年 | 110 |
2021年 | 112 |
2022年 | 160 |
2023年(会社予想) | 192 |
2015年からの配当推移を見ていきますが順調に増配が継続しているなか、直近の増配幅は業績好調を背景に大きくなっており、前期までで13年連続増配となっています。
豊田通商の配当方針は連結配当性向25%以上を基本方針とし、安定的な配当の継続並びに配当の増額に努めていくとしています。
株価推移
株価はコロナショックで2046円まで下げましたが、その後は5000円付近まで急速に上昇しました。そこからは5000円付近で停滞する時期もありましたが、直近は5700円付近で推移しています。
株価指標(2023年4月14日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
豊田通商 | 8015 | 5670 | 7.4 | 1.08 | 192 | 3.39 | 25.0 |
直近の株価は動きが止まっていますが、最近の大幅増配を受けて配当利回りは3%半ばとなっています。
業績好調によりPERは市場平均より割安で、配当性向は25%付近と方針通りの水準です。
投資判断
今までの内容から豊田通商の投資判断ですが、トヨタグループという抜群の安心感に加え、業績、配当推移も順調です。そして10年以上増配が続いている事や現在の低水準な配当性向を考慮すると今後の増配にも期待できます。以上の点を踏まえると現在の配当利回りがトヨタ自動車より高い事も含め、高配当株としてトヨタ自動車を購入するのならば豊田通商を狙った方が良さそうな気もします。
【4206】アイカ工業
2番目の銘柄はアイカ工業です。
アイカ工業は国内シェアトップのメラミン化粧板を扱う建装建材事業と工業用接着剤などを扱う化成品事業がメイン事業の化学メーカーで本社は愛知県です。ちなみにメラミン化粧板とは、メラミン樹脂によって加工したプラスチック版の事でキッチンやカウンター、テーブルなどで使用されています。
そして、中国やベトナムなどのアジアを中心に海外への販売も多く、売上の半数近くを占めています。
直近決算
アイカ工業は2月10日に第3四半期決算を発表しており、最終利益は97億円と2億円の増益となっていますが、通期最終利益、年間配当見込みに変更はありません。
前期比増益の要因について、接着剤系商品の施工用接着剤や木工・家具向け汎用接着剤、産業用フェノール樹脂などにおいて販売価格への転嫁が進んだ事や建装建材セグメントにおいては、医療福祉施設などの非住宅市場での需要が回復した事などに加え、インドや東南アジア各国で売上が伸長したためとしています。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | アイカ工業 |
2019年3月期 | 133 |
2020年3月期 | 127 |
2021年3月期 | 107 |
2022年3月期 | 131 |
2023年3月期(会社予想) | 133 |
2019年からの通期最終利益を見ていきますが、コロナショックの影響で減益となった2021年以外は130億円前後で安定しています。2022年はコロナショックからの経済活動再開の影響などで業績も回復しており、前期も更に増益見込みとしているなか第3四半期時点の通期進捗率は73%と概ね順調に推移しています。
配当推移
銘柄名 | アイカ工業 |
2015年 | 43 |
2016年 | 46 |
2017年 | 85 |
2018年 | 92 |
2019年 | 103 |
2020年 | 106 |
2021年 | 107 |
2022年 | 108 |
2023年(会社予想) | 109 |
2015年からの配当推移について順調に増配が続いていますが、最近の増配幅は1円刻みになっており、数年前と比較すると小さくなっています。そんななかアイカ工業は前期までで14年連続増配を継続中です。
アイカ工業の配当方針は株主の皆さまへの利益還元と会社の持続的な成長を実現するため、各期の連結業績、配当性向および内部留保を総合的に勘案した上で配当を行うとしており、
具体的な目安は、2024年3月期までの中期経営計画「Change & Grow 2400」においては、連結配当性向50%を目処にしています。
株価推移
株価は2018年に4750円まで上昇した後は低迷し、コロナショックでは2584円まで下落しました。その後は4000円を超える場面もありましたが、直近は3000円前後で動きが止まっています。
株価指標(2023年4月14日)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
アイカ工業 | 4206 | 3035 | 14.6 | 1.31 | 109 | 3.59 | 52.4 |
最近の株価は動きが止まっているなか配当は1円ずつでも増配していますので、配当利回りは3%半ばとなっています。しかしPER、PBRに割安感はなく、配当性向は52%付近と方針通りの水準です。
投資判断
今までの内容からアイカ工業の投資判断について、業績は安定しており配当も少しずつですが増配を継続している株主還元力には魅力を感じます。しかし、直近の増配ペースや配当性向を見ても分かる様にそこまで余裕がある状況でもありません。
以上の点を踏まえると、アイカ工業については今後も増配を継続していけるほど業績を伸ばしていけるのか、もう少し様子を見たいところです。
【9882】イエローハット
3番目の銘柄はイエローハットです。
イエローハットはカー用品を専門に取り扱う量販店で、現在全国に700店舗以上展開しているため、馴染みがある人も多いかと思います。
取り扱い製品はタイヤやカーナビなどに加え、車検やオイル交換などのメンテナンスも行っており、車全般に関わるサービスを手掛けています。
直近決算
イエローハットは1月31日に第3四半期決算を発表しており、最終利益は93億円と前年同期比で13億円の増益になっていますが、通期最終利益、年間配当見込みに変更はありません。
前期比増益の要因について、半導体不足による新車販売数減少によりカーナビやドライブレコーダーの売上は低調でしたが、タイヤの価格改定が2度実施された事で値上げ前の駆け込み需要が発生した事などによりタイヤ販売が好調だったためとの事です。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | イエローハット |
2019年3月期 | 73 |
2020年3月期 | 73 |
2021年3月期 | 85 |
2022年3月期 | 96 |
2023年3月期(会社予想) | 98 |
2019年からの通期最終利益を見ていきますが、コロナショックの影響もそれ程関係なく順調に増益が続いており、2022年は過去最高益となっています。増益が続く要因としてコロナショックによる営業時間短縮などの影響はありましたが、感染対策として車、バイクでの移動需要が高まったことにより当初予想よりも早く需要が回復した事や寒波による降雪の影響で冬用タイヤやタイヤチェーンなどの販売数が増加したためとの事です。
そして、前期は更に増益見込みとしていますが、第3四半期時点の進捗率は95%付近ですので、更なる上積みも期待できそうです。
配当推移
銘柄名 | イエローハット |
2015年 | 23 |
2016年 | 27 |
2017年 | 30 |
2018年 | 33 |
2019年 | 36 |
2020年 | 46 |
2021年 | 54 |
2022年 | 58 |
2023年(会社予想) | 62 |
2015年からの配当推移をみていきますが、据え置きの年すらなく順調に増配が継続しており、前期までで13年連続増配を継続中です。また、イエローハットは2019年に株式分割を行っていますので、株式分割前の金額は調整した金額となっています。イエローハットの配当方針は、中長期的な視点で連結業績に応じた利益還元を重視し、連結配当性向30%を目指す方針です。
株主優待
イエローハットには株主優待が設定されており、保有株数によって全国の店舗で使用できる割引券がもらえますので内容を表にまとめています。
保有株数 | 割引券 | |
100株以上1000株未満 | 10枚(3000円分) | |
1000株以上3000株未満 | 25枚(7500円分) | |
3000株以上5000株未満 | 40枚(1万2000円分) | |
500株以上 | 50枚(1万5000円分) |
こちらの内容を3月と9月の年2回もらえるほか、ウォッシャー液2.5L1本と引き換えできる引換券ももらえますので、イエローハットをよく利用する人にはおすすめの株主優待です。
株価推移
株価はコロナショックで1195円まで売られた後、2021年8月には2157円まで上昇しました。しかしその後は値を下げ、直近は1800円前後で推移しています。
株価指標(2023年4月14日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
イエローハット | 9882 | 1813 | 8.5 | 0.80 | 62 | 3.42 | 29.2 |
最近の株価は高値圏から下落している事に加え、増配が継続している事で配当利回りは3%半ばの水準です。
業績好調によりPER、PBRは市場平均と比較して割安で、配当性向は29%付近と方針通りの水準です。
投資判断
今までの内容からイエローハットの投資判断ですが、最終利益は過去最高益が続くなか前期も第3四半期時点の通期進捗率は90%超と順調に推移しています。業績好調により増配が継続している事で配当利回りも3%半ばと高配当株として気になる水準です。
今後の業績については、半導体不足による新車販売数減少や若者の車離れなどの懸念点があるため、今まで通りの勢いで伸び続けていくか不安な部分はありますが、配当性向にはまだ余裕がありますので株価が下がる場面では狙いたくなる銘柄です。
【4845】スカラ
4番目の銘柄はスカラです。
スカラはASP(アフィリエイト)サービスを中心にITやAI、IoTなどのDXサービスを手掛けている企業です。DXによる人材、教育事業やEC事業に加え、行政サービスの高度化支援なども行っています。
直近決算
スカラは6月決算のため2月14日に第2四半期決算を発表しており、最終利益は9000万円と前年同期の赤字から黒字回復していますが、通期最終利益、年間配当予測に変更はありません。
業績が黒字に転換した要因は、企業価値の創造支援から大規模DX案件に繋げる営業活動への注力や地方創生にかかわる新規サービスの開発に加え、海外事業を推進する体制構築などへの積極的な投資を継続している中で、収益力改善やコスト削減の効果が出たためとしています。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | スカラ |
2019年6月期 | 9 |
2020年6月期 | 3 |
2021年6月期 | 30 |
2022年6月期 | -5 |
2023年6月期(会社予想) | 6 |
2019年からの通期最終利益を見ていきますが増減が激しくなっており、2021年は大きく業績が伸びていますが、2022年は一転赤字に転落しています。2021年に業績が伸びている要因は連結子会社であるソフトブレーン株式会社を売却したことによる株式売却益が発生したためで、2022年に赤字に転落した要因は一部の連結子会社において当初の収益計画ほどの成長が見込めず再評価により、のれん減損損失が発生したためです。
以上の様にここ数年は本業とは直接関係ない要因で業績が増減しており、今期は先程もお伝えした様に黒字回復の見込みとなっていますが、第2四半期時点の通期進捗率は14%付近と不安の残る状況です。
配当推移
銘柄名 | スカラ |
2015年 | 12 |
2016年 | 14 |
2017年 | 18 |
2018年 | 20 |
2019年 | 24 |
2020年 | 28 |
2021年 | 34 |
2022年 | 36 |
2023年(会社予想) | 37 |
2015年からの配当推移について不安定な業績とは関係なく増配を継続しており、今期までで14年連続増配となっています。
スカラの配当方針は財務体質の強化と今後の事業展開を図るために必要な内部留保を確保しつつ、安定的、継続的な配当を実施していくとしており、中期的には増配を継続しつつ配当性向50%以下の水準を目指す方針です。
株価推移
株価はコロナショックで355円まで売られましたが、その後は1000円を超える水準まで急反発しました。しかし、そこからは700円台での動きが中心で直近も750円前後で推移しています。
株価指標(2023年4月14日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
スカラ | 4845 | 753 | 20.1 | 1.56 | 37 | 4.91 | 98.6 |
株価は動きが止まっているなか増配を継続している事で、配当利回りは5%前後と高水準です。今期業績は黒字回復の見込みですがPER、PBRは市場平均よりも割高で、配当性向は98%付近とこちらもかなりの高水準です。
投資判断
今までの内容からスカラの投資判断ですが、DXに特化している事業内容に将来性は感じますが、直近の業績推移や配当性向をみると現時点で投資を検討する事は厳しい印象です。特に今期の配当性向は100%付近と高水準で前期も赤字に転落しているなか増配を継続していますので、今後も今まで同様に増配を継続できるかは不透明です。
以上の点を踏まえ、スカラについては今後の業績推移を見守りつつ、将来性に期待したいところです。
【8593】三菱HCキャピタル
最後の銘柄は三菱HCキャピタルです。
三菱HCキャピタルは、2021年4月に三菱UFJリースと日立キャピタルの合併により誕生した総合リース会社です。直近の業績は欧米を中心とした事業の伸長や航空関連における売却益などにより増益傾向となっています。
そして、海外事業にも注力しておりアメリカなどで風力や太陽光などの再生可能エネルギー事業にも出資参画しています。
直近決算
三菱HCキャピタルは2月10日に第3四半期決算を発表しており、最終利益は859億円と前年同期比で102億円の増益ですが、通期最終利益、年間配当予測に変更はありません。
業績好調の要因は、2021年11月に完全子会社化した米国の海上コンテナリース会社CAI の利益貢献や航空セグメントなどにおける貸倒関連費用の減少に加え、海外地域セグメントの米州子会社を中心とした事業の伸長などとしています。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | 三菱HCキャピタル |
2019年3月期 | 687 |
2020年3月期 | 707 |
2021年3月期 | 553 |
2022年3月期 | 994 |
2023年3月期(会社予想) | 1100 |
2019年からの通期最終利益をみていきますが、コロナショックで業績が落ち込んだ2021年以外は順調に増益傾向となっています。
2022年の業績が大きく伸びている要因は日立キャピタルとの合併効果もありますが、合併効果が関係ない前期も過去最高益を更新する予測になっているなか、第3四半期時点の通期進捗率は78%付近と順調に推移しています。
配当推移
銘柄名 | 三菱HCキャピタル |
2015年 | 9.5 |
2016年 | 12.3 |
2017年 | 13 |
2018年 | 18 |
2019年 | 23.5 |
2020年 | 25 |
2021年 | 25.5 |
2022年 | 28 |
2023年(会社予想) | 31 |
2015年からの配当推移をまとめていますが順調に増配傾向が続いており、連続増配は前期までで23年連続を継続中です。コロナショック時の2021年は増配額が0.5円とぎりぎりの増配でしたが、その2021年以外は安定した増配額です。
三菱HCキャピタルの配当方針は、2023年4月にスタート予定の新中期経営計画期間中の配当性向イメージである40%程度に沿って決定する方針としています。
株価推移
株価は2020年11月に437円まで下がりましたが、その後は反発しています。しかし、700円を超える場面もあったコロナ前の水準へは戻れておらず、直近は600円台で推移しています。
株価指標(2023年4月14日時点)
最近の株価は600円台で安定していますが増配が続いている事もあり、配当利回りは4%半ばと高水準です。
業績好調を受けてPER、PBRは市場平均と比較して割安で、配当性向は40%付近と方針通りの水準です。
投資判断
今までの内容から三菱HCキャピタルの投資判断について、業績、配当は順調に推移していますが、株価はまだコロナ前の水準を超えられていません。そんななか23年連続増配を継続中と今回検証した銘柄の中でも増配継続年数は郡を抜いています。配当性向にも余裕を感じ最低購入金額も10万円以下と購入しやすいですので、高配当株として保有しておきたい銘柄です。
まとめ
今回は10年以上増配を継続している高配当株5銘柄を個別に検証しました。各銘柄の現状は様々でしたが、コロナショックの様なイレギュラーな出来事がありつつも、据え置きの年すらなく増配を継続している姿勢は評価したいです。
しかし、高配当株投資で大切な事は10年、20年後の未来です。
今まで増配を継続していたからといって、今後も同様に増配が継続される保証はどこにもありませんので、その辺りは銘柄ごとの現状と将来性を踏まえ投資を検討する事が大切かと思います。
10年以上増配が続く高配当株については、YouTubeで動画版も投稿していますのであわせてご覧ください。
コメント