7月末からお盆前にかけては3月期銘柄の第1四半期を中心に決算発表が相次ぎました。第1四半期決算という事で通期見通しの修正などは多くありませんでしたが、内容は前期までの好調な流れを引き継いでいる銘柄や前期の反動で大きく上下している銘柄など明暗が分かれている印象でした。
という事で今回は良くも悪くも先日発表された決算が衝撃的だった4銘柄を検証していきます。
【8306】三菱UFJFG
最初の銘柄は三菱UFJFGです。
三菱UFJFGは、メガバンクの三菱UFJ銀行を中核に持つ金融持株会社で国内最大手の金融グループです。
三菱UFJ銀行のほか、三菱UFJ証券やリースの三菱HCキャピタルなども傘下にしています。
そして近年は、アメリカを中心に海外への積極的な進出も進めています。
直近決算
三菱UFJFGは8月1日に第1四半期決算を発表しており、最終利益は5583億円と前年同期比4447億円の増益となっていますが、通期最終利益、年間配当予測に変更はありません。
業績好調の要因は、業務純益の増益や持分法適用会社であるMorgan Stanleyの持分法適用決算期の変更、前期MUB関連損失の反動に加え、円安の影響などとしています。
ちなみにMSの決算期変更については、決算期を従来の1月12月から4月3月へ変更したとの事で、変更に伴い今期第1四半期はMSの23年1Q(2023年1月-3月)決算を含む6ヵ月間の損益を取込んでいるとの事です。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | 三菱UFJ |
2018年3月期 | 9896 |
2019年3月期 | 8726 |
2020年3月期 | 5281 |
2021年3月期 | 7770 |
2022年3月期 | 11308 |
2023年3月期 | 11164 |
2024年3月期(会社予想) | 13000 |
2018年からの通期最終利益を見ていきますが、コロナショックで大幅減益となった2020年以外は概ね順調に増益傾向で、2022年はコロナショックによる倒産に備えていた与信関連費用の戻り入れなどの影響で最終利益は1兆円の大台に乗せています。
前期業績はMUBの株式譲渡に絡む特別損失の影響で第3四半期時点の通期進捗率が約34%と厳しい状況になっていましたが、損失の大部分を第4四半期に特別利益として計上した事で、減益とはなりましたが通期最終利益は1兆円台をキープしています。
そして、今期業績は本業が引き続き順調に推移する見込みとして大きく増益の予測にしているなか、第1四半期時点の通期進捗率は43%付近とかなり好調なスタートを切っています。
配当推移
銘柄名 | 三菱UFJ |
2015年 | 18 |
2016年 | 18 |
2017年 | 18 |
2018年 | 19 |
2019年 | 22 |
2020年 | 25 |
2021年 | 25 |
2022年 | 28 |
2023年 | 32 |
2024年(会社予想) | 41 |
2015年からの配当推移を見ていきますが、2018年頃からは順調に増配傾向です。
コロナショックで業績が落ち込んだ2021年の配当は据え置きでしたが、ここ数年は業績好調を背景に増配額も大きくなっており、今期は過去最高の引き上げ幅となる9円の増配見込みとしています。
三菱UFJFGの配当方針は、2023年度までに配当性向40%への累進的な引き上げを目指すとしています。
株価推移
株価はコロナショックで380円まで売られた後は上下を繰り返しながらも順調に上昇しています。
そして、去年年末の日銀による長期金利上限幅引き上げをきっかけに金利先高観が強まった事で株価は急騰し、直近は久しぶりに1000円台を回復しています。
株価指標(2023年8月18日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
三菱UFJ | 8306 | 1094.5 | 10.1 | 0.73 | 41 | 3.75 | 37.9 |
今期配当は大きく増配見込みですが、最近の株価も急騰している事で配当利回りは3%半ばとなっています。
業績は順調に推移していますのでPER、PBRは市場平均より割安で、配当性向は38%付近と方針通りの水準です。
投資判断
今までの内容から三菱UFGFGの投資判断ですが、第1四半期決算は前年同期比の約5倍、通期進捗率は43%付近とかなりのロケットスタートとなりました。
先程も触れた様に、前期はMUB関連の損失で第3四半期まではかなり低調な業績でしたので、ある程度順調なスタートは予想できましたが、ここまでの内容は衝撃的です。
内訳は一過性要因や前期MUB関連の反動もありますので、額面通りには受け取れない部分もありますが、本業も順調に推移していますので、第2四半期以降の業績にも期待したいです。
【5201】AGC
2番目の銘柄はAGCです。
AGCは、建築用や自動車向けのガラスを中心に電子材料や化学素材も製造しており、旧商号の旭硝子から2018年に社名を変更しています。
社名変更はAGCを世界的な統一ブランドとして定着させる事も目標としており、実際アジアやヨーロッパなど様々な国へ製品を輸出しています。
最近はCMなどで見かける事も多く、「素材で頑張るAGC」を強くアピールしています。
直近決算
AGCは12月決算ですので8月2日に第2四半期決算を発表しており、最終利益は405億円と前年同期比307億円の減益となっています。
業績低迷に伴い通期最終利益を590億円へ280億円下方修正しましたが、年間配当は210円で変更ありません。
業績低迷の要因について、売上は自動車用ガラスおよび建築用ガラスなどの販売価格上昇や為替の影響で増収ですが、製造原価の悪化および原燃材料高などの影響としています。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | AGC |
2018年12月期 | 895 |
2019年12月期 | 444 |
2020年12月期 | 327 |
2021年12月期 | 1238 |
2022年12月期 | -31 |
2023年12月期(会社予想) | 590 |
2018年からの通期最終利益を見ていきますが、ここ数年は変動が大きくなっています。
2020年頃はコロナショックの影響で大きく業績を落としましたが、2021年は塩化ビニル樹脂や建築用ガラスの販売価格上昇などにより過去最高益へV字回復しています。
しかし、前期業績はディスプレイの大幅な需要減や原燃材料高に加え、大規模な減損損失計上のため赤字に転落しています。
今期業績は自動車用ガラスをはじめとする他のコア事業や戦略事業の伸長に加え、減損による減価償却費減の影響もあり大きく増益の見込みとしているなか、先程お伝えした様に第2半期決算で業績の下方修正を発表していますが、数年前と比較すると大きく伸びている状況です。
配当推移
銘柄名 | AGC |
2015年 | 90 |
2016年 | 90 |
2017年 | 105 |
2018年 | 115 |
2019年 | 120 |
2020年 | 120 |
2021年 | 210 |
2022年 | 210 |
2023年(会社予想) | 210 |
2015年からの配当推移について、数年前までは120円前後の水準でしたが2021年は業績好調により一気に増配幅が大きくなっています。
しかし、2021年の配当210円は北米建築用ガラスの事業譲渡による一時的な収益に対応する還元として特別配当50円が含まれていました。
そんななか、前期は業績が赤字に転落していますが普通配当のみで210円を維持しており、今期も据え置きの予測となっています。
AGCの配当方針は、財務健全性の維持や成⻑事業への投資機会を確保しつつ株主還元を着実に実施する方針で、具体的な目安として安定的に連結配当性向40%としています。
株価推移
株価はコロナショックで2255円まで売られた後、2021年11月には6040円まで上昇しました。
しかし、その後は右肩下がりで去年11月には4205円まで値を下げており、直近は4800円前後で推移しています。
株価指標(2023年8月18日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
AGC | 5201 | 4773 | 17.3 | 0.70 | 210 | 4.40 | 76.3 |
最近の株価は低迷していますが、配当は前期の水準を維持している事で配当利回りは4%台となっています。
今期業績は増益見込みですがPERは市場平均より割高で、配当性向は76%付近と目安の40%を大きく上回っています。
投資判断
今までの内容からAGCの投資判断ついて、第2四半期決算で通期業績の下方修正はありましたが、数年前と比較すると今期業績は順調に推移しています。
ただ、減益要因である原材料費の高騰は今後も継続する可能性がありますので引き続き懸念点です。
また、激しく変動する業績と比較して安定感のある配当推移ですが、今期の配当性向は76%付近とかなりの高水準になっていますので、もう少し様子を見たい気持ちが強いです。
【7203】トヨタ自動車
3番目の銘柄はトヨタ自動車です。
トヨタについては敢えて説明するまでも無いかもしれませんが、日本最大手の自動車メーカーで世界での自動車販売台数もトップクラスです。
また、子会社であるダイハツやスバル、マツダ、スズキなどの自動車メーカーとも提携を結び勢力を拡大しています。
そしてガソリン車廃止の流れに対しては、電気自動車の販売台数を2030年に30車種、350万台にするとの計画を発表し注力しているところです。
直近決算
トヨタは8月1日に第1四半期決算を発表しており、最終利益は1兆3113億円と前年同期比5745億円の増益となっていますが、通期最終利益の見込みに変更はなく、年間配当は非開示のままです。
業績好調の要因は長らく続いた半導体需給の改善に加え、仕入先と一緒に進めてきた生産性向上活動により、全ての地域で前年同期から販売台数が増加したためとしています。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | トヨタ |
2019年3月期 | 18828 |
2020年3月期 | 20361 |
2021年3月期 | 22452 |
2022年3月期 | 28501 |
2023年3月期 | 24513 |
2024年3月期(会社予想) | 25800 |
2019年からの通期最終利益について、2022年にかけては順調に増益が続いていますが、前期は久しぶりに減益での着地となっています。
2022年にかけて業績が好調だった要因は、コロナ感染拡大や半導体需給による生産制約があるなか、原価改善や営業面の努力のためとしています。
前期業績は半導体需給のひっ迫や自然災害、コロナ感染などの影響で生産計画が大きく変動する中、販売店・仕入先・工場の現場が必死に努力し、全地域で販売台数は増加しましたが、資材高騰などの影響が大きく減益での着地となっています。
今期業績は半導体需給改善などの影響で増益見込みとしていましたが、第1四半期時点の通期進捗率は50%を超えるほど好調なスタートになっています。
配当推移
銘柄名 | トヨタ |
2015年 | 40 |
2016年 | 42 |
2017年 | 42 |
2018年 | 44 |
2019年 | 44 |
2020年 | 44 |
2021年 | 48 |
2022年 | 52 |
2023年 | 60 |
2024年(会社予想) | ‐ |
2015年からの配当推移について、数年前は40円台で据え置きの年も多かったですが、2022以降は増配ペースに勢いがつき、前期は一気に8円の増配となっています。
今期予測は現状非開示としていますが、業績は前期を大きく上回って推移していますので、今期も大幅な増配が期待できそうな雰囲気です。
トヨタの配当方針は、長期保有の株主の皆様に報いるため、安定的・継続的に増配を実施するとしています。
株価推移
株価はコロナショックで1154円まで売られた後は順調に値を戻し、去年1月には2475円まで上昇しました。
その後は2000円付近で停滞する時期もありましたが、直近は2400円付近まで上昇しています。
株価指標(2023年8月18日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
トヨタ | 7203 | 2349 | 12.3 | 1.05 | ‐ | ‐ | ‐ |
最近の株価はじわじわ上昇しているなか、今期配当は非開示ですが前期配当の60円で計算すると配当利回りは2%半ばの水準です。
今期業績は増益見込みですがPER、PBRは市場平均並みで、今期配当は非開示のため配当性向は算出できない状況です。
投資判断
今までの内容からトヨタ自動車の投資判断ですが、今期は第1四半期から通期の半分以上を稼ぐほど好調なスタートを切っており、今後の上方修正にも期待が持てます。
高配当株として考えた場合、前期水準の配当利回りでは少し物足りない部分がありますが、今後の大幅増配を期待して狙っても面白そうです。
以上の点を踏まえ、今後のEV市場への対応には不安な部分もありますが、世界を代表する企業規模や知名度を含め、株価の調整局面があれば狙いたいというところです。
【8566】リコーリース
最後の銘柄はリコーリースです。
リコーリースは複合機やパソコンなどのオフィス関連機器や医療機器や産業工作機械、計測器などのファイナンス・リースに加え、法人向けに融資を行っているリコー系のリース会社です。
リース銘柄らしく安定した業績、配当で推移していましたが、第1四半期決算の内容は衝撃的な内容でしたので詳細を見ていきます。
直近決算
リコーリースは8月3日に第1四半期決算を発表しており、最終利益は9億円と前年同期比38億円の減益となっていますが、通期最終利益、年間配当予測に変更はありません。
前期比大幅減益の要因は、大口債権の早期返済やサービス事業が伸長している事で売上は増収ですが、投資有価証券の評価損を39億円計上するためとしています。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | リコーリース |
2019年3月期 | 119 |
2020年3月期 | 118 |
2021年3月期 | 120 |
2022年3月期 | 134 |
2023年3月期 | 148 |
2024年3月期(会社予想) | 144 |
2019年からの通期最終利益を見ていきますが、コロナショックの影響も関係なく順調に増益が続いています。
業績好調の要因は、資産利回り改善の継続やリース&レンタル事業の伸長によるものとしており、前期は過去最高益を記録しています。
今期はコロナ関連レンタル特需による反動減や販管費の増加を想定し減益見込みとしているなか、先ほどお伝えした様に第1四半期決算は前年同期比で8割減、通期進捗率は6%付近と衝撃的に悪い内容でした。
前期比大幅減益の要因は投資有価証券に絡むもので、本業は順調に推移しているとの事でしたが、今後に懸念が残る今期のスタートとなりました。
配当推移
銘柄名 | リコーリース |
2015年 | 50 |
2016年 | 55 |
2017年 | 60 |
2018年 | 70 |
2019年 | 80 |
2020年 | 90 |
2021年 | 100 |
2022年 | 120 |
2023年 | 145 |
2024年(会社予想) | 150 |
2015年からの配当推移を見ていきますが、減配はもちろん据え置きの年すらなく順調に増配が継続しており、前期までで28期連続増配を継続中です。
そして最近の増配幅は好調な業績を背景に大きくなっています。
リコーリースの配当方針は中長期的に安定した株主還元を基本方針としており、具体的な目安として2026年3月期までに配当性向35%を目指すとしています。
株主優待
リコーリースには株主優待があり、保有株数や保有継続年数によってQUOカードかカタログギフトがもらえますので、詳細を表にまとめています。
保有株数 | 保有継続年数 | 金額 | 優待品 | |||
100株~299株 | 1年未満 | 2000円相当 | QUOカード | |||
1年以上3年未満 | 4000円相当 | |||||
3年以上 | 5000円相当 | |||||
300株以上 | 1年未満 | 5000円相当 | カタログギフト | |||
1年以上3年未満 | 8000円相当 | |||||
3年以上 | 1万円相当 |
特に継続保有年数が3年を超えると金額もかなり大きくなりますので、中長期投資家には有難い株主優待です。
株価推移
株価はコロナショックで2423円まで売られた後は、停滞する時期を挟みながら上昇しています。
そして、ここ2年位は3000円台での動きが中心でしたが、直近はじわじわ値を上げ久しぶりに4000円台を回復しています。
株価指標(2023年8月18日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
リコーリース | 8566 | 4165 | 8.9 | 0.60 | 150 | 3.60 | 32.1 |
最近の株価はじわじわ上昇していますが安定して増配している事で、配当利回りは3%半ばとなっています。
業績好調によりPER、PBRは市場平均と比較して割安で、配当性向は32%付近と方針通りの水準です。
投資判断
今までの内容からリコーリースの投資判断について、今まで業績が順調に推移していたリコーリースですが、第1四半期決算は前年同期比で8割減、通期進捗率は6%付近と衝撃的に悪い内容でした。
しかし、要因は先程お伝えした様に投資有価証券の評価損に絡むもので、営業利益の通期進捗率は25%付近と順調に推移しており、通期予測の修正もありませんでした。
以上の点からも第2四半期以降で十分巻き返せるものだと信じてはいますが、少し心配なスタートとなりました。
まとめ
今回は先日発表された決算が良くも悪くも衝撃的な内容だった4銘柄を検証しました。
4銘柄のうち三菱UFJFGとトヨタは衝撃的に良い決算、AGCとリコーリースは衝撃的に悪い決算となっています。
それぞれ良かった理由や悪かった理由を分析する必要はありますが、最近の傾向として今回の4銘柄以外にも業績の明暗が大きく分かれ出している印象がありますので、保有銘柄や今後購入を検討している銘柄の決算には引き続き注意が必要です。
良くも悪くも衝撃的な決算だった4銘柄はYouTubeで動画版も投稿していますので、あわせてご覧ください。
40代元証券マンの高配当株投資(YouTube編)
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