今回は現在の信用倍率がかなり低い3銘柄が高配当株として投資可能か検証していきます。
一般的に信用倍率が低い銘柄は今後の買い需要が高いと判断される事が多いですが、本当にそうなのか、そもそも信用倍率とは何なのかを含め見ていきたいと思います。
そして現在の信用倍率が低い3銘柄の現状や信用倍率が低い理由を検証し、高配当株銘柄として投資可能か個別に検証していきます。
信用倍率とは
そもそも信用倍率とは、信用取引における「買い残」と「売り残」の比率の事を指します。
信用取引の詳細についてここでは触れませんが、通常の現物取引との大きな違いは現在保有していない銘柄でも売却する事が可能な点です。
つまり、現在保有していない銘柄で今後株価が下がりそうだと思う場合は、新規の売却から入る「カラ売り」をする事ができます。
そして、信用取引で現在買われている株数を「買い残」、売られている株数を「売り残」と言います。
通常の取引では購入した銘柄を売却する事で決済しますが、カラ売りした銘柄については買い戻す事で決済します。
そして信用取引の決済期限は6ヶ月と決められています。
つまり、カラ売りが多く売り残が多い銘柄は、今後6ヶ月以内の買い需要が多いと判断する事もできます。
この事から売り残が買い残より多く信用倍率の低い銘柄は、今後の株価上昇が期待できると言えますので、ここからは実際に信用倍率の低い3銘柄を個別に検証していきます。
【3003】ヒューリック
最初の銘柄はヒューリックです。
ヒューリックは、東京都心を中心に保有している不動産の賃貸業や投資開発事業を手掛ける不動産会社です。
オフィスや商業関係が保有物件の7割以上を占めていますが、ホテルや高齢者施設などの物件も保有しています。
そして今後も都心の好立地物件を中心に競争優位性のあるポートフォリオを再構築していく方針です。
直近決算
ヒューリックは12月決算の為、10月28日に第3四半期決算を発表しており、最終利益は486億円と前年同期比で82億円の増益となっています。
業績好調に伴い通期最終利益を785億円へ35億円上方修正し、配当は年間42円へ従来予想から2円増額しています。
業績好調の要因は、前年や今期に竣工、取得したオフィスなどの不動産賃貸収入が安定的に推移している事や販売用不動産の売上も順調に推移した為としています。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | ヒューリック |
2018年12月期 | 495 |
2019年12月期 | 588 |
2020年12月期 | 636 |
2021年12月期 | 695 |
2022年12月期 | 785 |
2019年からの通期最終利益を見ていきますが順調に増益が続いています。
業績が順調に推移している要因として、コロナ感染拡大により一部の商業施設や宿泊施設は引き続き収益が低迷しておりオフィスの空室率も高い水準で推移していますが、不動産投資マーケットは低金利などを背景に不動産投資家の旺盛な投資マインドが継続したため、安定した市場を形成できたとしています。
配当推移
銘柄名 | ヒューリック |
2015年 | 15.5 |
2016年 | 17 |
2017年 | 21 |
2018年 | 25.5 |
2019年 | 31.5 |
2020年 | 36 |
2021年 | 39 |
2022年(会社予想) | 42 |
2015年からの配当推移を見ていきますが、順調な業績と連動して配当も増配が続いています。
ヒューリックの配当方針は、株主への利益還元を狙いとして安定した配当を継続することを基本方針としており、具体的な数値としては2022年に配当性向を40%程度まで段階的に引き上げる事を目標にしています。
株主優待
ヒューリックには株主優待がありますので内容をまとめています。
12月末時点で300株以上保有していると3000円相当のグルメカタログがもらえます。
また、継続保有年数が3年を超えるとグルメカタログギフトから2点(6000円相当)選ぶ事ができますので、中長期保有の投資家にとっては有難い優待です。
株価推移
株価はコロナショック時に858円まで売られた後は上昇し、2021年9月には1412円の高値を付けました。
しかし、その後は反落し直近は1000円台で推移しています。
株価指標(2022年12月23日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
ヒューリック | 3003 | 1052 | 10.2 | 1.22 | 42 | 3.99 | 40.7 |
最近の株価は動きが止まっていますが、安定して増配している事もあり配当利回りは4%前後の水準です。業績好調によりPERは市場平均と比較して割安で、配当性向は40%付近と方針通りの水準です。
そして今回のテーマである信用倍率は買い残約71万株に対し、売り残が約366万株で0.2倍とかなりの低水準です。
しかし、信用残の経緯をみると買い残はほとんど変わりませんが、売り残が12月に入り急激に増えており、これは株主優待目当ての「つなぎ売り」である可能性が高そうです。
つなぎ売りとは
株主優待目当ての「つなぎ売り」について簡単に触れておきます。
つなぎ売りとは、現在保有している銘柄について信用取引で新規売建注文を行う事です。
保有していない銘柄の場合は、現物の買い注文と信用の売り注文を同時に行っても大丈夫です。
つまり、株主優待目当ての銘柄について「現物株の保有」と「信用の売り玉」両方のポジションを取る事になります。
つなぎ売りのメリットとしては、配当や株主優待の権利が落ちた後は株価が下がりますので、株価下落のリスクを避ける事ができます。
具体的には権利落ち後に株価が下がったタイミングで信用売り玉を買い戻しても良いですし、現物で保有している株を実際に売却する「現渡」で信用売り玉を決済する事もできます。
どちらの方法でも権利確定日には現物株を保有していますので、配当や株主優待の権利を受け取る事ができ、権利が落ちた後に信用売り玉を決済する事で株価下落のリスクを避ける事ができます。
この様にまとめると無敵に思えるつなぎ売りですが、信用売りが増えると売り方が負担するコスト(逆日歩)が発生する可能性や売買における手数料が発生する可能性もありますので注意が必要です。
そして、ヒューリックは先程触れた様にかなり内容の良い株主優待を設定していますので、優待目当てで信用売りが増えている可能性が高く、実際過去の信用残の推移を見ても12月に入り売り残が増え、権利落ち後に減っていくパターンが確認できます。
投資判断
今までの内容からヒューリックの投資判断ですが、業績、配当は順調に推移しており将来性も期待できそうな内容です。
信用倍率については途中で触れた様に、今月の権利が落ちた後は従来の水準へ戻りそうですが、中長期の視点で考えれば権利落ち後に購入する事もアリの様な気もします。
ただ、事業内容はリートと同じ感じですので、株主優待は無いですが利回りだけを考えるとリートでも良い様な気はします。
【4665】ダスキン
2番目の銘柄はダスキンです。
ダスキンは清掃業務を中心に外食産業も展開しており本社は大阪です。
清掃業務では清掃・衛生用品のレンタルや販売に加え、家事代行サービスも手掛けています。
そして、外食産業では主力のミスタードーナッツを中心に事業を運営しています。
直近決算
ダスキンは11月8日に第2四半期決算を発表しており、最終利益は45億円と前年同期比で6億円の減益となっていますが、通期最終利益、年間配当予測に変更はありませんでした。
前期比減益の要因は、売上高は全てのセグメントで前年同期を上回っていますが、原材料費高騰や経費の増加などで最終利益は減益に陥っているとの事です。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | ダスキン |
2019年3月期 | 59 |
2020年3月期 | 55 |
2021年3月期 | 28 |
2022年3月期 | 81 |
2023年3月期(会社予想) | 66 |
2019年からの通期最終利益を見ていきますが、増減の激しい展開が続いています。
2021年はコロナショックの影響で大きく減益となっていますが、前期はミスタードーナツ事業がテイクアウト需要に対応して売上が伸びた事やコロナ関連の助成金収入が増加した事に加え、前期に加盟店へ支払った見舞金が当期は発生しなかった事などにより大幅増益となっています。
今期は、円安や原材料の高騰に加え戦略的投資などの影響により減益見込みとしています。
配当推移
銘柄名 | ダスキン |
2015年 | 40 |
2016年 | 40 |
2017年 | 40 |
2018年 | 40 |
2019年 | 50 |
2020年 | 56 |
2021年 | 40 |
2022年 | 83 |
2023年(会社予想) | 81 |
2015年からの配当推移をみていきますが、数年前までは年間40円付近で安定していました。しかし、前期は業績の大幅増益を受けて配当も2倍以上の水準へ増配しており、今期は現状減配見込みですが、数年前と比較すると大きく伸びています。
ダスキンの配当方針は、連結配当性向60%または自己資本配当率(DOE)2.5%のいずれか高い額としています。
DOEとは「株主資本配当率」の事で株主資本に対してどの程度の配当を支払っているかを示す指標で、株主資本とは株主が出資した資本金や利益余剰金などで構成されています。
当期利益は年ごとに増減が激しい企業も多く、利益を基準にした配当方針だと配当額の大きな増減にも繋がる為、最近はDOEを株主還元の目安とする企業も増えてきています。
株価推移
株価はコロナショックで2189円まで下げた後は、上下を繰り返しながら値を戻しています。
今年6月以降は株価が大きく上下する場面もあり、直近は3000円前後で推移しています。
株価指標(2022年12月23日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
ダスキン | 4665 | 2978 | 22.2 | 0.96 | 81 | 2.72 | 60.4 |
最近の株価はここ数年の高値圏で推移していますので大幅増配を受けても、配当利回りは2%台の水準です。
PERは市場平均と比較して割高で、配当性向は60%付近と方針通りの水準です。
そして、信用倍率は0.07倍とかなりの低水準です。しかし、ダスキンは元々出来高が少ない銘柄で売り残も9万株程度しかない状況です。
投資判断
今までの内容からダスキンの投資判断について、直近の業績は大きく伸びており好調な業績と連動して配当も大幅増配となっています。
しかし、大幅増配でも配当利回りは2%台と高配当株としては少し寂しい水準です。
信用倍率も低いですが元々の出来高が少ないため、ダスキンについては今後の更なる増配を期待してもう少し様子を見たいかなというところです。
【8439】東京センチュリー
最後の銘柄は東京センチュリーです。
東京センチュリーはオートリースや航空機リースなどを手掛ける伊藤忠系の大手総合リース会社です。
リース銘柄らしく業績は安定傾向でしたが、今期はロシアのウクライナ侵攻を受けてロシアの航空会社向けへリースしている機体を特別損失として計上した事で大幅減益となっており、株価も大きく下げている状況です。
直近決算
東京センチュリーは11月7日に第2四半期決算を発表しており、最終利益は62億円の赤字に転落していますが、通期最終利益、年間配当予測に変更はありませんでした。
第2四半期決算が赤字に転落している要因は、ロシアのウクライナ侵攻を受けてロシアの航空会社向けにリースしている航空機を全て解除した事が大きな要因です。
解除済みリース機体については、将来のキャッシュ・フロー見積りが困難な状況であるため、当該機体の減損損失約470億円を特別損失として計上しています。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | 東京センチュリー |
2019年3月期 | 522 |
2020年3月期 | 563 |
2021年3月期 | 491 |
2022年3月期 | 502 |
2023年3月期(会社予想) | 200 |
2019年からの通期最終利益を見ていきますが、前期までは500億円前後で安定していましたが、今期は大きく減益見込みとなっています。
今期大幅減益の要因としては、先程もお伝えした様にロシアのウクライナ侵攻により、連結子会社を通じてロシアへ航空機をリースしていた事が大きな要因です。
ロシアウクライナ情勢の今後は依然不透明な状況が続いていますが、東京センチュリーとして他の事業は順調に推移しているとしており、今後ロシアウクライナ情勢により更なるマイナス要因が発生する可能性は低いとしています。
配当推移
銘柄名 | 東京センチュリー |
2015年 | 65 |
2016年 | 80 |
2017年 | 100 |
2018年 | 114 |
2019年 | 124 |
2020年 | 136 |
2021年 | 138 |
2022年 | 143 |
2023年(会社予想) | 143 |
ここ数年の業績は停滞が続いていましたが配当は順調に増配傾向で、そして今期の業績は大きく減益見込みですが配当は据え置きの予測としています。
東京センチュリーの配当方針は、長期的かつ安定的に利益還元を行うことを基本とし、持続的な利益成長を果たしたうえで配当性向の向上も図っていきたいとしています。
具体的な配当性向などの目安はありませんが、他のリース銘柄同様、株主還元力は強いです。
株価推移
株価はコロナショックで2870円まで売られた後、2021年1月に9340円の高値を付けていますが、その後は右肩下がりの状態が続いています。
今年に入ってからはロシアのウクライナ侵攻を受けて春ごろには4000円を割れる場面もあり、直近は少し戻し4500円前後で推移しています。
株価指標(2022年12月23日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
東京センチュリー | 8439 | 4435 | 27.1 | 0.69 | 143 | 3.22 | 87.5 |
株価は停滞が続いていますが配当は据え置きとなっていますので、配当利回りは3%前後の水準です。
しかし、業績低迷を背景にPERは市場平均と比較してかなり割高で、配当性向は87%付近とこちらもかなりの高水準です。
そして信用倍率は約0.4倍となっていますが、東京センチュリーの売り残も20万株程度とそこまで多くはなく、ここ最近の信用売り残の推移をみても大体この位の水準で推移しています。
しかし、現在の買い残約8000株は最近の中でも少ない方ですので、今後の業績への不安から買い残が少なくなり信用倍率が低下している可能性はあります。
投資判断
今までの内容から東京センチュリーの投資判断ですが、直近の業績や株価はロシアウクライナ情勢の影響を大きく受け低迷が続いています。
しかし、途中でも触れましたがロシアウクライナ絡みでこれ以上業績が悪化する可能性は低そうですので、来期以降の業績に期待したいところです。
来期以降業績が通常状態に戻るとするのならば、今の株価や信用倍率はお買い得かもしれません。
まとめ
今回は信用倍率が、かなり低い高配当株を3銘柄検証しました。
信用倍率が低い要因は3銘柄とも違いましたが、冒頭でも触れた様に信用売り残は6ヶ月以内の買い需要でもあります。
そして本当に強い相場は、売り方の買い戻しを誘発するケースが多いです。
もちろん今回の3銘柄くらいの売り残で相場が大きく左右される事はありませんが、信用倍率も銘柄を選定する時にチェックする様にしておくと、思わぬ有望株が発見できるかもしれません。
信用倍率の低い高配当株3選については、YouTubeで動画版も投稿していますのであわせてご覧ください。
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