今回は日本を代表するハイテク銘柄である東芝とNECの銘柄検証を行いたいと思います。
私が証券会社で働いていた約20年前、ハイテク企業と言えば日本を代表する産業で東芝やNECについても個人投資家からの人気が高く、頻繁に売買していた印象があります。
しかし、個人的にも約2年前に投資を再開してからハイテク銘柄の動向を確認する事がありませんでしたので、今回は東芝とNECが高配当株として投資可能か現在の業績や株価、今後の展望を踏まえ個別に検証していきます。
【6502】東芝
最初の銘柄は東芝です。
東芝は日本を代表する電機メーカーですが、最近は2015年に発生した粉飾決算の問題や2017年には傘下の原子力関連企業の経営破綻により、大幅赤字からの債務超過で東証2部へ格下げされるなど悪いニュースが目立つ様になっています。
そして2017年以降は、債務超過を避ける為に出資を受けた海外ファンドの中に短期間で利益を追求しようと経営に厳しい注文を付ける「モノ言う株主」の存在があった為、大きく影響を受けているところです。
東芝の現状
東芝については現状が非常に込み入っている為、もう少し詳しく触れておきます。
東芝は先程触れた「モノ言う株主」の影響で近年は大幅増配を行ったり、会社分割による子会社の売却益を株主に還元する方針を打ち出したりと混乱が続いています。
そして直近の動きとしては、東芝の企業価値向上に向けた戦略的選択肢を株式の非公開化も含めたうえで国内外の投資家やスポンサーに募集しているところです。
東芝の株式を非公開にする場合は、株主から今より高い価格で株式を購入する事が想定されます。
その為、「モノ言う株主」にとっては株式の非公開化が早く利益をあげる方法にはなりますが、中長期的にみて東芝の価値を高める方法になるのかは不透明です。
そして、先日も東芝が経営再建案を巡り優先交渉権を与えた企業連合が東芝の非上場化に向けた買収額として2兆8千億円を想定しているとの報道が出た事で東芝の株価が急上昇するなど状況は混沌としています。
ちなみに買収額が報道通りだとすると、概算の計算で1株の買い取り価格は6000円超えと現在の株価を大きく上回ります。
東芝は9月30日にパートナー候補との折衝を向こう数か月にわたって行うと発表していますので、もう少し決着には時間が掛かりそうです。
直近決算
東芝は8月10日に第1四半期決算を発表しており、最終利益は258億円と前年同期比79億円の増益となっていますが、今期最終利益見込みは非開示のままで、年間配当予測は290円で変更ありません。
前期比増益の要因として営業損益は前年同期比で減益でしたが、有価証券の売却益に加え持分法損益の改善などの為としています。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | 東芝 |
2019年3月期 | 10132 |
2020年3月期 | -1146 |
2021年3月期 | 1139 |
2022年3月期 | 1946 |
2023年3月期(会社予想) | ‐ |
2019年からの最終利益を見ていきますが、増減の激しい展開となっています。
2020年はコロナショックの影響もあり赤字に転落していますが、2021年以降は2期連続で増益と持ち直しています。
東芝と言えば家電メーカーのイメージがあるかと思いますが、ここ数年の混乱によりテレビやパソコン事業、メモリ事業などを売却し、現在は原子力や火力などの大型発電設備やビル・施設向けの昇降機・照明事業などに加え、鉄道事業なども手掛けるインフラメーカーへ変革しています。
そして今期業績についてはキオクシアHDの経営に関与しておらず、同社の業績予想を入手していない為、予想値を策定できていないとしています。
キオクシアHDとは
キオクシアHDとは、元々は東芝の半導体メモリ事業が分社化されて設立した東芝メモリの事で2019年に社名が変更されています。
東芝は現在キオクシアHDの株式を約4割保有していますが、実務上可能な限り速やかに現金化し、適用法令の範囲内で全額株主還元に充てるとの事です。
しかし、東芝の半導体メモリ事業は従来経営の柱と位置付けられており、債務超過を避ける為に分社化された事を考えると、東芝の混迷には根深いものを感じます。
配当推移
銘柄名 | 東芝 |
2015年 | 40 |
2016年 | 0 |
2017年 | 0 |
2018年 | 0 |
2019年 | 30 |
2020年 | 20 |
2021年 | 80 |
2022年 | 220 |
2023年(会社予想) | 290 |
2015年からの配当推移について、赤字が続いていた2016年頃は無配が続いていましたが、ここ数年の配当は不安定な業績と比較すると大きく増配となっています。
この大幅増配についてもモノ言う株主の影響を強く受けており、前期は年間220円のうち特別配当が110円、今期は年間290円のうち特別配当が160円と大きな割合を占めていいます。
東芝の配当方針は一層の株主還元の促進と当社の長期的な企業価値の向上を目的として、平均連結配当性向30%以上の実現を基本とするとの事です。
株価推移
株価はコロナショックで1982円まで売られた後は、右肩上がりの状況が続きました。
そして、今年5月には5938円まで上昇し、その後は5000円を割れる水準までじわじわ売られましたが、直近は非上場化に向けた買収額が報じられた事で5500円付近まで上昇しました。
株価指標(2022年10月21日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
東芝 | 6502 | 5352 | ‐ | 1.90 | 290 | 5.42 | ‐ |
最近の株価はここ数年で見ると高値圏で推移していますが、大幅増配を受けて配当利回りは5%超と高水準です。
通期最終利益の見込みが公表されていない為、PERや配当性向は算出できない状況です。
投資判断
今までの内容から東芝の投資判断ですが、高配当株としては投資できる状況ではないと思います。
現状の配当利回りは5%超と高水準ですが、高配当株投資の1番の目的は中長期にわたって安定した配当を受け取る事ですので、今の東芝は最もかけ離れた存在です。
このままですと現状の配当を継続して受け取れるかも不透明ですが、今後の上場が維持されるのかも分からない状況です。
以上の点から東芝については、短期的な投資の場合は今後の経営再建案次第で利益が出る可能性はありますが、中長期の投資銘柄としては購入できないというところです。
【6701】NEC
2番目の銘柄はNECです。
NECも少し前ならばパソコンや携帯電話のイメージが強かったと思いますが、採算悪化などを踏まえ近年はパーソナル事業からインフラ事業への移行が進んでいます。
そして現在は政府や官公庁、医療機関、電力会社などに向けたITシステム、ネットワークシステムなどの提供や通信事業者向けにネットワーク構築に必要な機器や運用管理のための基盤システム、運用サービスなどを提供しています。
直近決算
NECは7月28日に第1四半期決算を発表しており、最終利益は-138億円と赤字に転落していますが、通期最終利益、年間配当予測に変更はありません。
第1四半期の最終利益が赤字に転落した要因について売上は前年並みでしたが、調整後の営業損益で社会公共事業、ネットワークサービス事業が悪化し減益となった為としていますが、この点については通期で着実にリカバリーをすれば回復できるとの事です。
通期最終利益(億円)
銘柄名 | NEC |
2019年3月期 | 396 |
2020年3月期 | 999 |
2021年3月期 | 1496 |
2022年3月期 | 1412 |
2023年3月期(会社予想) | 1150 |
2019年からの通期最終利益を見ていきますが、前期までは概ね順調に増益傾向となっています。
順調に増益が続いている要因としては、5G基地局の出荷やDX関連などの成長事業が拡大しているとの事です。
今期については引き続きITサービスの堅調な需要や5G事業の拡大により売上は増収見込みとしていますが、前期にあった一過性の税金費用減少があり通期最終利益は減益見込みとしています。
配当推移
銘柄名 | NEC |
2015年 | 40 |
2016年 | 60 |
2017年 | 60 |
2018年 | 60 |
2019年 | 40 |
2020年 | 70 |
2021年 | 90 |
2022年 | 100 |
2023年(会社予想) | 110 |
2015年からの配当推移を見ていきますが、2016年頃は60円付近で据え置きや減配の年もありましたが、ここ数年は好調な業績を背景に増配ペースに勢いが付いています。
NECの配当方針は、資本効率を重視した事業運営を行うとともに、成長領域への投資や財務基盤の充実をはかることが長期的な企業価値の創出につながると考えており、各期の利益状況や今後の資金需要等を総合的に考慮した株主還元に努めるとしています。
株価推移
株価はコロナショックで3180円まで売られた後、2021年4月には6850円の高値を付けています。
しかし、その後は右肩下がりの状況が続き、直近は4800円付近で推移しています。
株価指標(2022年10月21日時点)
銘柄 | コード | 株価 | PER | PBR | 配当 | 配当利回り | 配当性向 |
NEC | 6701 | 4820 | 11.3 | 0.85 | 110 | 2.28 | 25.9 |
直近の株価は高値から下落してきている事に加え増配を受けて、配当利回りは2%台前半といったところです。
PERやPBRは市場平均と比較して若干割安で、配当性向は26%付近と余裕を感じる水準です。
投資判断
今までの内容からNECの投資判断ですが、少し前のイメージと事業内容は変わっていますが、政府や官公庁、通信事業者へ向けてITシステムなどを提供するサービスは将来性も期待できるかと思います。
今期業績は現状減益見込みとなっていますが、ここ数年で見ると業績は増益傾向で配当も増配が続いています。
高配当株とした場合、現在の配当利回りは少し寂しい水準ですが、今後の増配に期待を込めて株価が下落する場面があれば狙ってみたくなる銘柄です。
まとめ
今回は日本を代表するハイテク企業の東芝とNECについて個別で検証しました。
2銘柄ともひと昔前のイメージとは企業内容が大分変わり、もはやハイテク株とは呼べない様な状況でもありますが、置かれている状況も大きく違いました。
冒頭でもお伝えしましたが、今から約20年前のハイテク企業と言えば日本の中心の様な銘柄でしたので、時代の移り変わりの怖さを感じます。
そんな中、NECについては個人向けの事業からインフラ事業への変革が上手く進んでいる感じですが、東芝の混乱はしばらく続きそうです。
2銘柄とも日本を代表するメーカーですので、もちろん頑張って欲しい気持ちはありますが、現状購入するのならばNECかなというところです。
東芝とNECの投資判断は、YouTubeで動画版も投稿していますのであわせてご覧ください。
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